ゆらめく資産の記録

家庭菜園でパセリを栽培すべきか、業績堅調な株を買うべきか

1 利益を得る目的で、事業・不動産・証券などに資金を投下すること。転じて、その将来を見込んで金銭や力をつぎ込むこと。「土地に投資する」「若いピアニストに投資する」

2 経済学で、一定期間における実物資本の増加分。

とうし【投資】の意味 - goo国語辞書

辞書的な意味はさておき、投資というのは普遍的なものです。家庭において家事労働負担の軽減を目論んで食洗機を買うというのも立派な投資だと考えています。「いい買い物だった」というのは要するに「いい投資だった」と言ってるのと同じです。

この食洗機を買うという決断こそが投資です。数万円の出費で家事労働の負担をこれだけ軽減できる、といった思惑で購入を決めたり見送ったりするわけです。衝動買いでないなら、まずは食洗機を買うことで期待される便益、掛かる費用、その他もろもろを計算することになります。計算といっても費用は金銭、便益は金銭以外のものなので、単位を揃えて天秤に掛けることは難しい。1円=0.14便利みたいな為替レートもないですしね。無理やり食器洗いに必要な時間を金銭に変換して考えてもいいですし、1円=0.14便利という仮想的な為替レートを(感覚的に)弾き出して考えてもいいですが、いずれにせよ何らかの損得勘定ののちに費用を投じて資本を得てそれを稼働させる、という形になります。

パセリの生産

事業で考えてみましょう。事業といってもまだ家庭の中の話になります。ここでは家庭菜園を考えます。作物はなんでもいいですが、とりあえずパセリということで話を進めます。このご家庭ではしょっちゅう刻んだパセリを使って自炊しています。市販のものを買ってきて日々消費していますが、こんなに日常的に使うのなら家庭菜園でパセリを栽培して自家消費したほうが得なのではないかと思いつきました。これは事業で言えば新規プロジェクトの発案ということになるでしょう。さて、このパセリ計画は投資に値するものでしょうか?

それを判断するには、最低でも以下のような数字が必要となってきます。なお、ややこしくなるので栽培したパセリと市販のパセリの品質は同じと仮定します。また、趣味ではなく家計収支の改善のためにやるとしますが、投じた時間は無視します(どうせそこまで大きくはないので)。

  • 一定期間(例えば毎月)のパセリ購入代金
  • 家庭菜園の初期コスト(設備購入費)
  • 家庭菜園の継続コスト(種などの仕入れ代と管理運用費)
  • 栽培の失敗リスク(歩留まり)

ここで継続コストが毎月のパセリ代を上回るのであれば、(品質は同じという想定なので)他の項目は考慮するまでもなく投資すべきでないということになります。継続コストが毎月のパセリ代を下回るのであれば、次は歩留まりを見てみます。撒いた種のうち5%しか芽吹かないのであれば、おそらく採算は合わなくなるでしょう。しかし未経験者が歩留まりの計算を事前に厳密に行うのは難しいので、とりあえずはざっくりと考えます。家庭菜園の中ではパセリの栽培難度はかなり低めなので、失敗リスクはそこまで高くないはずです。

継続コストと歩留まりが求まれば現在掛かっているパセリ購入代と照らし合わせて、パセリ事業が毎月どれくらいの利益を見込めるかがわかります。毎月100円お得ということであれば、初期費用を100円で割れば何ヶ月で元が取れるか(償却が完了するか)を計算できます。歩留まりはいくつかのパターンを想定しておくと、最悪ケースでは毎月何円、最良ケースでは何円という比較もできます。最悪ケースではギリギリ赤字だが栽培手法の熟達によっていずれはカバーできるだろうというような高度な打算も可能です。

こうして得られた数字を見てパセリ事業の良し悪しを判断し、実施可否を決定します。創業者(購買担当者)が投資家(家計担当者)に対して事業計画を説明し、承認が得られればパセリ事業が始まります。パセリ事業が利益になるとしても毎月10円の得でしかないならおそらくやらないでしょうし、毎月1000円以上得するならやろうという感じになります。プラスかマイナスかではなく、見込めるプラスが失敗リスクと比べて充分に高いかどうかが重要となります。

証券取引所において

話を証券取引に移します。証券取引はすべてがお金なので話は単純になります。考えるべきことは、投じたお金が「どれくらいの期間で」「どれくらい殖えるか」だけです。パセリの品質や料理の好みの変化などについて考える必要はありません。普通預金であれば、元本保証であり金利も事前に確定しているため、ほぼ確実にこれら2要素を計算できます(「ほぼ」とあるのは、ペイオフ対象外の普通預金の破綻リスクなどがあるためですが、まあ無視できるなら無視していいでしょう)。

証券取引においては、上に挙げた2番目の要素である「どれくらい殖えるか」の増加率がマイナスになることもありえます(=元本保証ではない)。また、「どれくらいの期間で」というのも債券などを除けば確定的ではなく、債券ですらデフォルトリスクを考えると確実なものとはいえません。確実ではありませんが、しかしそれなりの高い確度であるのならやる価値はあります。

株を買うときに見込める将来の利得として株価上昇(キャピタルゲイン)と配当(インカムゲイン)があります。具体的に何かの株を買うとき、「株価は過去にこういう推移になっているので今後こうなることが期待できる」「配当は過去にこういう推移になっているので今後こうなることが期待できる」といった皮算用ができます。

「こうなることが期待できる」の確度については、スパンを数十年とか長く取ればそれだけ確実性が上がるでしょうし、株価と配当以外にも様々な情報を加味すれば予測はより強固になります。とはいえ、より新しい、より強力な情報(例えば独裁的な創業社長の引退など)が出ればその情報が支配的に作用することもあるでしょうから、確度といっても「このまま何事も起こらなければ」という前提が暗黙にあります。市場が不確定性を嫌うというのも、事前に立てておいた皮算用シナリオが崩れるのを嫌うからでしょう。

さて、いまこの価格で買えばn年後にはこれくらいのプラスになっているだろう、という目論見がたてば、ようやく実施するかどうか決断の時が来るわけです。マイナスになりそうなときは論外としても、見込めるプラス幅がごく小さいようなら買うのはやめておいたほうが無難でしょう。この構図は家庭内のパセリ事業とまったく同じといえます。

投資と投機カテゴリについて

大局的には上記のような事柄を踏まえて、投資についてどうしていくのかをこのカテゴリ内で整理しつつ考えていきたいと思います。とりあえず今回は見込み益と不確実性についてでした(たぶん)。